子供の育て方を考えさせられる本
著者は一橋文哉。
これまでも、「グリコ・森永事件」「三億円事件」などをテーマにしたノンフィクションを手がけている方です。捜査資料の再検証、独自の取材、大胆な仮説とその検証を行い、そこで、本当は何が起こっていたのかを、氏独自の視点で再構成していく手法で、読者を導いてきました。
そんな著者の「宮崎勤事件―塗り潰されたシナリオ」です。
「宮崎勤」の名前は、連続して行方不明になる幼女、被害者の遺体の発見、被害者家族へ送りつけられた遺骨、犯人を名乗る「今田勇子」からの手紙、逮捕された青年、容疑者の部屋を覆う6000本のビデオ等、当時大々的に報道されたこともあり、まだ記憶の片隅に残っている方も多いかと思います。
逮捕された宮崎勤の風貌および公開された自室の写真から「『おたく』による犯罪」と言われ、『おたく』は怖くて得体の知れないものという認識が広まったりもしました。これまで『おたく』と言う言葉が、大手マスコミの紙面をにぎわせたことも無かったのですが、『おたく』が世間に認知されると同時に、普通のマニアと『おたく』の区別も無くなってしまいた。
そもそも『おたく』というのは、ファンダムの中でも人付き合いがうまく出来ない一部の人々を指す言葉です。そういう人たちは人に話しかけるときも相手をまっすぐに見ることが出来ずに、ちょっと斜め下を見ながら、「ねぇ、おたくさぁ…」と声をかけるところから『おたく』と呼ばれたわけです。普通のマニアの方々が『おたく』と言ってその手の人たちを侮蔑的に見ていたのですが、この事件を契機に、『おたく』と同一視されてしまったわけです。
そんなことはさておいて、本書で著者が暴いているのは、これまでの「真犯人を追え!」的な著作とは明らかに違っています。おそらくぼくらの頭の中に残っている宮崎勤は、「『おたく』でいかれたヤツ」ぐらいの認識だと思います。ところが本書では、「あまりよろしくない親子関係で育った青年が、完全犯罪を舞台に、人生で一度だけの主役を演じる」人物としての宮崎勤を描いているのです。どこにでもいる普通の男が犯した殺人であり、世間に報道されたような特殊な事件ではなく、ただ警察が公判を維持するために世論をそのようにリードしただけだということです。
読み進めていくうちに、否が応でも目に付くのが、崩壊している親子関係を示唆する記述です。親子関係が崩壊したからと言って、子供が必ず殺人を犯すと言うわけでもないでしょう。しかしながら親等による子供への虐待(死)が報道されまくっている時代でもあります。それらの遠因がどこにあるのかはわかりませんが、家族のあり方というものを考え直さなくてはならないのかもしれません。
宮崎勤事件―塗り潰されたシナリオ 一橋 文哉 おすすめ平均 |